現代EDでバレンタインネタ。
他の女の子のチョコが山になってるのは良い気はしない。
「目を瞑って待っててくれるかい?」
望美は恋人の部屋で、沢山の色とりどりの箱の山を半ば睨むように見下ろしていた。
「ヒノエくん……これ、何?」
「チョコレート?今日は良い日らしいね」
望美とは対照的ににこにことしているヒノエの視線から目を逸らしてソファに深く座った。
別に、良いけどね。うん。
断ってくれるなんて、思ってなかったし。
望美は出来る限り笑顔を作った。
「良かったねヒノエくん?」
「一番欲しいチョコはまだだけどね」
蠱惑的な笑みが何を意味しているかはわかる。
だが、素直に鞄の中にあるものを渡す気にはなれない。
「作った、よ。作ったけどね」
思わず視線を箱の山に向けた。
その箱ひとつひとつヒノエへ見たこともない女の子があげたと思うと面白くない。
そんなもの自分だけで良い。
ヒノエは無意識に膨らんだ望美の頬を突き、呆気に取られた望美を見てヒノエが喉で笑った。
「姫君は本当に可愛いね。
王子にはたったひとりの姫君が必ずいると教えてくれたのは望美なのに」
組んでいた脚を降ろしてソファから立ち上がった。
「ヒノエくん…?」
「目を瞑って待っててくれるかい」
ぱちんとウィンクを投げ掛け扉を隔てた隣りの部屋へ消えた。
暫く消えた背を睨んだがすぐにその瞼を閉じた。
バレンタイン、なのにな…。
自分をしっかり見てくれていることはわかっているのに、それでも腹を立てて。
謝ろうと心に決めたのと同時に扉が開いた。
その音にぴくりと肩を震わせた。
ヒノエの気配が近付くにつれ、ふと仄かに甘やかな香りが望美の鼻腔をついた。
ヒノエの足音がぴたりと止まり、甘やかな香りは冷気と共に望美の鼻先で揺れ動くのをやめた。
「良いよ、その紫苑の瞳で映してごらん?」
「もうっ」
悪戯っぽい声音に照れ隠しで返して緩やかに瞼を持ち上げた。
「う…わ………」
「バレンタインに異性に贈り物をするのはどちらでも良いらしいね」
目の前に広げられたのは薔薇。
ひとつとして同じ色は無い。
一本一本丁寧に包まれた薔薇が彩り鮮やかに望美にその優美なかんばせを擡げる。
薔薇を持ち優しく細められた瞳の赤色。
彼が愛した大海の青色。
自分が胸の奥につける彼への想いのようなピンク色。
他にも橙や緑、紫、白など多色に及ぶ。
一括りに「赤」でもオレンジがかっていたり複色のもの。
それでもその全て、色鮮やかに纏う彼に結び付けることが出来る。
「おれは待つだけなんてしないよ、望美。
こっちの世の男はただチョコを貰えるのを待つだなんて気が長いね?」
それから、と呟いてヒノエは望美の耳にかかる短い髪を払い、その口許を近付けた。
「教えて……お前は薔薇なら、どの色が好き?」
近すぎてすぐ目の前にあるヒノエの髪がぼやける。
謝る前に許されたら、もう怒れない。
望美は今日会って初めて、ヒノエにとびきりの笑顔を向ける。
丁寧に棘を取った真紅の薔薇の茎を手にとり、ぷつりと花びらを一枚千切り取り、花びらを唇に寄せた。
「王子さまがずっと纏ってる色が、好きだよ」
ヒノエは少し照れたように笑うと望美の唇に当てられた花びらに唇を寄せた。
「チョコよりも口接けだなんてよくわかってるね」
「ヒノエくんのことだからね」
でも彼のためだけに慣れない料理を頑張ったのだから、受けとって欲しい。
自分だけの、王子サマに。
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