柚木と義姉の会話。未来予想図?
「笑って過ごせれば、きっと幸せよ」
休日というのに、柚木は朝から非常に疲れた気分になっていた。
祖母の気まぐれで一族と、長い社中のみでの茶会が開かれた。
内輪のもので、小さいことは小さい。
肩も然程張らずに済む。
だが柚木にとって内容の濃度が問題では無い。
(丸一日あいつで遊べないのがこんなに辛いとはな)
まるで依存しているようなところは面白くないが、今のとおころ大きくプライドに障る事ではない。
何より、「あいつ」に知られなければ。
(まぁ、そんなボロは出さないけれど――――――)
「あら、久し振りね、梓馬くん」
自分の思考の世界から現実に引き戻すように、柚木を呼ぶ声が掛かった。
「お久し振りです、お義姉さん」
にこりと笑って、小さく手を振りながら、片手で首の据わらない子供を抱いて、柚木へと近寄る女性は柚木の実兄の嫁……柚木からは義理の姉にあたる人。
「相変わらず髪長いわね」
「似合いませんか?」
「まさか。おにーさんと似た顔なのにこうも雰囲気違うのか不思議なくらい似合うわ」
絶賛に近い台詞に、礼を笑顔に込めて返した。
兄と彼女は、家同士がの繋がりによる、家が決めた結婚だ。
だが、同時に劇的な結婚でもある。
お互い茶会で知り合い、人伝てに紹介して貰い、近づいた。
お互い家での立場があるから、と割り切って付き合っていたがそうおもいかず、お互いの結婚が決まった頃には、離れるに離れられなかった。
見合いの相手を断ってそれぞれの親や家を説得しようと臨んだ。
だがそのお見合い相手こそが恋人で。
最早断る理由が無い二人はとんとんと結婚が決まった。
だから、目の前の女(ひと)は幸せそうに微笑う。
(まあ、おれには有り得ない話だ)
運命云々を手放しで信じる方ではない。
だが、『運命の出逢い」 にしておいた方が良いこともある、とは思う。
彼女たちがそれ。
「大きくなりましたね」
唯一と願う彼女との今の関係を重ねてそれを苦く感じる前に振り払うために、言った。
「ふふっそうね。あなたが前に見たときはこの子が生まれたときだから」
微笑ましげに見ながら、思う。
―――――――ああ、この子もきっとおれみたいになる。
年の数が片手で足りる頃から、何と無く周囲の視線や、空気が気になり始める。
十を数える頃には、自分の気持ちを偽って行動する術を身につけて周囲の反応を窺って、そうして歪んで育つ。
素直な人間が、眩しく思う。欲してしまう。
近づいても、己の汚さばかりを見てしまうというのに。
小さく、自嘲のように笑った。
「この子も、きっと柚木に関係する仕事に就きますね」
自分のことを込めて、言った。
それに、義姉は、やはり微笑った。
「そうね。きっとそれは決定ね」
だけれど、と繋げた時に柔らかく陽が射した。
「笑って過ごせれば、きっと幸せよ」
仕事だけにそれを見出さずとも。
言ったところで、義姉を呼ぶ兄の声が聞こえて、彼女は返事をした。
じゃあね、と柚木に声をかけると、子供を抱きなおして少し早歩きで行った。
(笑って、過ごせれば?)
本当に笑う事なんて、もう随分と久しい。
否、久しかった。
(香穂子に逢ってからは)
笑う事が増えた。
本性の自分を受け入れたのは彼女だけ。
有りの侭の己で良いと信じられるのは彼女の前だけ。
きっと一日で過ごす時間にすればそれはほんの僅かな時間。
今万での人生の中ではきっと掠ったかわからないような時間。
それでも自分の一挙一動で、喜怒哀楽よりもずっと多くの表情を見せる彼女が、退屈しない。
今まで過ごした時間よりも、ずっと輝いて見える。
(言うつもりないけどな)
一生離れない、と言わせた時くらいは、言ってやろうか。
自分でも甘ったるく思う本音を。
―――――――柔らかい陽の中で子供を抱く義姉に、微かに未来を夢見た、と。
その陽に包まれながら、音に乗せず唇だけ動かして紡ぐ。
叶えば、運命みたいだろう?
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