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オレオ

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2012.09.23 Sun 「 幸福で奏でる日々は、愛しく甘く遙か2 彰紋×花梨
HP「オレオ」の48000のキリ番小説
「すみません、嫌、でしたか…?」


ああもう、と女房は嘆息し、脱力しそうになった体と盆を持った腕を長年仕えている矜持で堪えた。

彼女が仕えているのはそこらの「有力貴族」程度ではない。

だからこそ、この人擦れしてなさに嘆息せざるを得ない。

その女房の背後で響くのは、爪弾いているだけでもおぼつかない、筝の音色。













「む、難しい……っ」

「何事も最初は難しいのですよ」

にこりと笑って嵌めたときと同じように少女の手を取り、蒔絵が施された爪を嵌め直した。

東宮・彰紋は先立って一人の少女を北に迎えた。

この少女の出自やら出会いやらには様々な曰くとそれに尾ひれも背びれもついた噂が飛び交っているが、真実を知るのは極数人。

それについては割愛するが、この世界の生活に漸く慣れた最愛の少女がこの内裏で、自分がいないときでも退屈しないようにと筝を一面用意させた。

一度触ってみたらという筝の贈り主であり主人であるひとの笑顔につられるようにして、花梨は爪を受けとった。

そこで、漸く困った。

爪を受けとったまま微動だにしない妻がゆるゆると視線を合わせ、その瞳に描かれた心情に、思わず破顔した。

「大丈夫、ぼくが教えますよ」

言いながらそっと手を取り爪を親指からの三本の指に嵌めた。

「まず少し斜めに座ってください。

それから、二本の指で爪を嵌めた指を支えて…そうです」

ほう、と花梨は息を吐くと試しに手なりに近い弦を弾いた。

ビィン、と余り宜しくない音が響き、花梨はうなだれた。

「あ、彰紋くぅん……」

「低い音だからですよ。音が組合わさればとても綺麗な音になりますから」

励まされながら暫く練習するとある程度ぎこちなさも緩和してきた。

「ふあー……慣れると楽しいねぇ」

「肩は大丈夫ですか?少し、休憩にしましょうか」

「大丈夫!」

少し辛いが、こういう類が一般教養であるのは知っている。

以前にそれとなく触れた際には、「貴女が貴女であるから好きなので関係ありませんよ」と笑ってくれた。

だが、自分だけならいざ知らず、愛しいひとに自分のせいで恥はかかせたくない。

「漸く楽しくなってきたんだよ、教えて欲しいな」

これも本音には違いない。

ここなんだけど、と花梨は音階がかかれた料紙の一点を指した。

「そこは…ふたつの音を重ねるんですよ。

親指と人差し指で弾いてください」

こくんと頷き、言われた通りに弾く。

が、指にかかる力が違い、一方の音が鳴ったのと一瞬遅れて一方の音が鳴り、合わない。

「ああ、そこは……」

説明しようとしたがその声は止まった。

少しコツがいるらしく、小さく指を動かしてなんとか言葉にしようとするが、感覚で掴むものを説明出来る語彙などあまり無い。

暫く唸っていた彰紋は、何か思い付いたようにおもむろに立ち上がった。

「ここはですね……」

さらり、と衣擦れの音を聞かせ、花梨の後ろに周る。

背後から花梨の手を取り、その指に重ねて爪弾いてみせる。

弾いているのは花梨の指だが、弾かせているのは彰紋の指。

これなら感覚をそのまま伝えることが出来る。
「親指と人差し指で指を鳴らすような感じでしょうか?

――――――花梨さん?」

今まで表情も声音もころころと変えていた花梨が突然黙りこくった。

ふと見れば、極近くにある花梨の顔が朱に染まっている。

そこで漸く気付いた。

一瞬ぼやけてしまうほどの距離に、花梨がいる。

「ぁ……っ」

女性として花梨を意識していないのではない。

ただそれ以上に安らいでしまう。

だが花梨が嫌がっていればそんなこと言い訳にもならない。

「すみません、嫌、でしたか…?」

嫌、と言って胸の真ん中が痛んだ。

だが彰紋の予想に反して花梨は勢い良く首を横に振った。

「い、嫌って…違うの!」

頬に朱を散らしたまま、花梨は所在無げに視線を彷徨わせた。

「あの、ね?あたしすっごく幸せで。幸せ以上に凄く彰紋くんが、大すきなの…。

だから、今以上にすきすぎるの知られて、重荷になったらどうしようって……」

聞いているうちに彰紋は呆気に取られ、そのうち優しい色した瞳を蕩けさせた。

「……僕と花梨さんが離れるときは花梨さんが僕を嫌ったとき以外有り得ませんよ?」

「そんなのもっと有り得ない!」

大好きだよ、と言葉よりも如実に瞳が伝える。

お互いの瞳から想いを確認して、微笑みあった。













そしてその御簾越しにああもう、と女房は嘆息し、脱力しそうになった体と盆を持った腕を長年仕えている矜持で堪えた。

彼らの一連の会話は輿入れどころか想いを交わす以前の少年少女のようだ。

だが彼らはそうではない。

輿入れは数か月前とはいえ、想いを交わして数年の月日を経ているのだ。

きっと、主たちは毎日毎日、お互いに一から恋をしているのだ。

もう、と再度嘆息した。

口許に隠しきれない笑みを滲ませて。

そして女房は背筋を伸ばして、きちんと体勢を立て直した。

手習いを始めた、一途で懸命な奥方様へ菓子を差し入れる為に、しゅるりと衣擦れを響かせた。

きっとこの唐果物も、この若夫婦の甘さには及ばないけれど。


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