文を書くと言い出した友雅と受取人藤姫。
「私の文に馴れず迷惑かな?」
「文を書こうと思うよ」
「神子さまにですの?」
「いや…――――君にだよ」
小春日和のような秋の日のこと。
友雅が文を書くと言って数日。
友雅がやって来る昼間と藤姫が寝つく前の一日二通。
必ず送ってくるようになった。
焚きしめられた香も見とれるほどの蹟も沿えられた花も、くらくらしそうな程の甘い歌も、嬉しい。
嬉しいのだけども意図が読めない。
何故今頃になって出そうと思ったのか。
何故…送ってくれるのか。
とくとくと、いつもより早い心臓の音がやけに耳につく。
決して不快ではない。
それが気恥ずかしいのだと思って袖で顔を押さえた。
と、風に乗ってふわりと香が漂った。
「私の文に慣れず迷惑かな?」
友雅が腰を下ろしてきしりと床が鳴った。
御簾越しの為に表情は見えない。
「まさか迷惑なんて事…」
妙に恥ずかしくなってそのあとに続く言葉を口の中で抑え込んだ。
「いや、ね」
くすりと笑った気配がした。
「――――姫もね、そろそろ文を貰う年だろう?」
言われて女房からどこその大将殿から文が届いたと言われた。
「はあ…」
「日に二回も文を寄越す男が居れば恋事に興味の無さげな姫君も気にかけてくれるんじゃないかと思ってね」
「はあ……」
呑み込めず曖昧に返した。
「っ……!あのっ」
唐突に線と線とが繋がって顔が極端に熱くなった。
「姫の元に届く私の文が数えきれなくなった頃――――」
話を聞く内御簾に近付いていた藤姫の額の辺りの御簾に唇を当て、小さく音を立てた。
「――――っとっもま……友雅殿っ!」
軽やかに微笑う友雅の顔が、御簾越しとは言えど見れずに袖で視界を塞いだ。
「いかがかな姫君?」
「っ…友雅殿が、」
震えそうな声で紡ぐ。
「友雅殿が本当に送って下さるなら、……お願いしますわ」
紅葉が散る頬。
嬉しげに緩む頬。
あわせられない揺らぐ瞳。
見えない一枚を隔てている姫を見つめる瞳。
――――御簾の下で合わせられた指先から紡がれる、想いと歌。
きっと暖かい秋の日に凪ぐ揺るやかな風のような心地良い、数えきれないほどの――――…………。
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