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オレオ

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2012.09.22 Sat 「 first loveコルダ3 八木沢×かなで
silent love内での八木沢と八木沢が会ってたひととの会話。
「いいから追いかけてあげて

やぎかなというかゆのかほかもしれないです。

海に向かって、思い切りトランペットを吹く。

突き抜けるような青空や、芳る潮風、夏色に色づく空気を、トランペットが震わせ、塗り変える。

一曲吹き終わり一回分の深呼吸の時間のあと、軽やかな拍手が奏者――八木沢の耳に届く。

「ふふ、ブラボー」

知らない女性が潮風が赤茶の髪とスカートをを煽るままにし、柔らかく微笑んでいた。

「あ…有り難う御座います」

「その制服…仙台の至誠館高校よね。

あなたたちの中に、火原先輩…火原和樹さんの教え子がいるって聞いたんだけど…知ってる?」

慣れない呼称に一瞬わからなかったが、わざわざ仙台から駆けつけてくれた恩師をすぐに思い出した。

「僕が火原先生の教え子で…八木沢雪広といいます」

「あ、ごめんなさい、私は日野香穂子です。

……私、星奏学院出身で火原先輩の後輩なの」

耳馴染みのある学校の名前を繰り返すと、日野と名乗った女性ばぱっと口許を押さえた。

「ごめんなさい、余りいい思いをしない学院名だよね」

「え?…ああ、いいえ。とても素敵な学校だとおもいます。

負けたのが、星奏で良かったと思えますし……星奏と競えて、楽しかった」

軽く目を見張った日野はゆるく笑った。

「火原『先生』でしょ?音楽は楽しむものだって教えてくれたの」

「ええ。僕にとってまさしく恩師です」

自分が褒められたように、日野は更に笑みを深くした。

その笑顔は先程よりも少女然としている。

「私ね、普通科で、音楽なんてなんにも興味なかったから高校二年になるまで音楽なんてしたことなかったの」

「え?」

「良くわからない内に学内のコンクールに巻き込まれて、あっと言う間に舞台立たされて。

…リコーダーとかならともかく触ったこともないヴァイオリンで参加することになったの」

「……それは…」

「無謀でしょ」

「あ、いや……」

どうフォローしようか必死に頭の中の語彙を探していると、日野はそれでも笑った。

「でもね、一緒にコンクール参加してた火原先輩が教えてくれたの。

ガボットを一緒に練習して、音楽を楽しんでって」

大切なことで難しいのだと、火原が技術よりも何よりも八木沢に教えたことだ。

「音楽の楽しさを知らない子にそれを教えたいって、先生になったの」

心から嬉しそうに、大切なアルバムを捲り語るように微笑む。

「火原先輩、私達コンクールの参加者の中で、多分一番難しい夢を叶えたのね」

負けた自分たちに「残念なことなんてなにもない」と笑った、あの先生を思い出す。

「あの、」

「ん?」

「日野さんは火原先生の…その、恋人なんですか?」

ぱちぱちと瞬いて、日野は小さく笑った。

「私が?やだ、そんな風に見えた?」

「大事そうに話されるので…」

やっぱり不躾だったかと逡巡する八木沢に、日野はその印象の答えを出した。

「大切な人よ。先輩としても人としても大好き。

それに火原先輩は愛してる人の親友だから」

今度火原先輩の親友のそのひとと結婚するの、と、幸せそうに微笑んだ。

不意に日野の視線が八木沢から外れる。

何とはなしに八木沢もそれを追うと、彼女の出身校の現役たる、かなでがいた。

人懐こい彼女なら駆け寄ってくると思ったが、驚きに似た色を浮かべ首もとを覆う襟を翻して来た方向へ駆け出した。

「えっ小日向さん?!」

「八木沢くんごめんなさい、追いかけてあげて」

気不味そうに潮風に踊る髪を抑え、日野は視線を落とした。

「ごめんなさい、彼女と待ち合わせって知ってたら早く離れたんだけど、話し込んじゃって……」

「いえ…」

言いながらかなでを追いかけようとして八木沢は止まった。

耳慣れていない訳ではないが、自分に馴染みの無い単語が、あった。

「……か、彼女って小日向さんがですか!?」

「小日向さんって言うの?」

「いや、小日向さんとはそんな…っ」

「でも大切な娘でしょ?

話してて何度かあの子が来た方見てたから、何かあるのかな~って思ってたんだけど」

「~~っ」

「いいから追いかけてあげて」

「はい。…また、会えますか?」

他の「先生」と毛色が違う恩師の話をまた聞きたい。

瞬きを一回して、日野はやっぱり微笑んだ。

「そうだね、小日向さんと仲直りしたらね」

ばいばい、と日野は手を振って八木沢を見送る。

八木沢はかなでが走って行った方へと更に走る。

性別差も体力の差も、日頃の運動量も違う。

――――高校の時にね、一つ年下のヴァイオリニストがいたんだ。

――――楽器始めて一年目だったから手助けはしてたけど…救われてたのはいっつも俺たちだったんだ。

きっとあの人なんだろう。

何かがわかりそうで、でも踏み込んではいけない気がして、それ以上考えるのを止めた。

今は……かなでの笑顔が見たい。












「うーん、遠距離恋愛になるのかなぁ」

八木沢が駆けた方を、八木沢の背中が見えなくなっても見ていた。

だがきっと大丈夫だろうと思う。

女の勘でしかないが、割と当たるのだから。

「小日向さん」は知らないが、「彼女?」と聞いてあんな反応する男の子が好きになったのだから、きっと心は近い筈。

「そういえばアンサンブルメンバーであんなタイプいたかな…。

月森くんと土浦くんは思いっきり眉間に皺寄せて無視しそうだし、志水くんは首傾げて終わっちゃいそうだし…加地くんは何か違うでしょー?

…火原先輩かなー」

「何言ってるのお前」

「えっわ、梓馬さん!」

ついこの間漸く久し振りにあった仲間を思い出していると婚約者が現れた。

思い切り物思いに耽っていた自分が悪いのだが。

「大きな独り言だね、声かけようか迷ったよ」

「かけてくださいよ!」

「で?何考えてたらそんな独り言になるんだ?」

もう一度香穂子は八木沢が走っていったほうへ目を向ける。

八木沢はもうあのこに追いついただろうか。

「私たちが星奏にいたときって、あんまり高校生らしい素直なひといなかったなって」

「おれがいたじゃないか」

「一番ひねてたじゃないですか」

「へぇ、言うねお前」

ついと香穂子の顎に指をかけ上を向かせ、必要以上に距離を詰める。

「ぎゃー!すみませんでしたとりあえず指どけてください!」

「お前ね、婚約者に色っぽいことされて「ぎゃー」は頂けないな」

「梓馬さんの顔心臓に悪いんですって」

まあいいけど、と微苦笑をして柚木は香穂子の隣に並んだ。

「さっき、火原先輩の教え子に会ったんです。すごくいい子でしたよ」

「だろうね」

「知ってるんですか?」

「知らないよ。でも火原の教え子だろう?」

当然のように言った柚木に香穂子は少し目を見開いて、口許を綻ばせた。

「あーあっ妬けちゃいますね」

「何言ってるんだ」

ぴしりと柚木の長い指が日野の額を弾く。

「ったーい!」

「ほら、行くよ。みんなと会いたかったんだろう?」

今し方額を弾いたその手を差し伸べる柚木の手を取る。

柚木の手がしっかりと重ねた日野の手を握り、引かれて歩く。

引かれながら、もう一度、振り返る。

口の中だけで、最後に呟く。


―――頑張って。あなたたちは、あのひとの夢だから。



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