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オレオ

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2012.09.22 Sat 「 たとえばそれは、恋に似ているかもしれないコルダ 金澤×冬海
冬海のプリントを運んだ金澤の昼休みイベント私的その後。
「冬海、これ頼まれてくれるか?」

たとえばそれは、恋に似ているかもしれない














「ん……っ」

腕も爪先も一杯一杯に伸ばして漸くぎりぎりで届いた黒板の文字が書かれた部分。

先ほどまで自分達の授業で使っていたのだから、と冬海は毎回移動教室の際には綺麗に消すようにしている。

「大丈夫かな……」

数歩下がって見た黒板はやや白くチョークの跡は残っているものの冬海の気が収まる程度には綺麗になった。

そして制服についた細かいチョークの粉を慎重に払い落とす。

無暗に叩いてしまうと、目立たないとはいえ繊維の間に入ってしまう。

「冬海じゃないか。ご苦労さん」

唐突に背後から軽快な口調で声がかかった。

ぱ、と振り向くとプリントを抱えている金澤がいた。

「いえ、わたしたちが使ったので……」

控え目に言った冬海に気怠げに賞讃を浴びせながら冬海に、否冬海の近くにある教卓に近付いた。

今は昼休みの時間だから、そのプリントを使うのは五限だろう。

教卓にどさりと置かれた紙の山を見、冬海はふと思い出した。

「あ、あの、金澤先生。こないだは有り難う御座いました……。とても助かりました」

じっと目を見上げて言う冬海に金澤は虚を突かれた。

そういえば、山のようにプリントを持っていた冬海に代わってプリントを運んだことはあった。

だが、金澤自身言われてすぐに出てこないほど忘れていたことだ。

一般女子生徒よりも見るからに線の細い冬海に、一般女子生徒なら音を上げる量を運ばせた担当教師に呆れたことも、思い出した。

「ああ、気にするなそんなこと。というか、あんなもんその辺の野郎でも捕まえて運ばせたら良い」

彼女が頼めば多少の厄介ごとくらい喜んで引き受ける男子生徒はそこいらに転がっていそうだ。

だが冬海は冗談として笑うでも、ならば次はと言うでもなく、ただ目を丸めていた。

そしてどう答えたものかと視線を少し困ったように彷徨わせた。

冬海の辞書には誰かに何かを任せるということは無いらしい。

ならば、純粋にギブアンドテイクならこの弱く見えるほど優しい少女も納得するだろうか。

「冬海、これ頼まれてくれるか?」

言って金澤が指したのは取れかけた白衣のボタン。

「いつでも構わないし俺も構わん。だがみっともないと喧しい上司がいてなぁ」

学内コンクール担当やってた位じゃまだまだ肩身が狭いんだ、とぼやく金澤に冬海も思わず破顔した。

「ソーイングセットなら今持ってます」

ポケットから小さな簡易のソーイングセットを出した冬海に今度は金澤が目を丸めた。

流石にここまでは予想していなかった。

今時鞄の中にソーイングセットどころかボタンをつけれる女子高生がどれだけいるかもわからない。

軽く絶句している金澤に冬海は首を傾げた。

「じゃあ頼むわ」

やおら脱いだ白衣を受け取り、手近な椅子に座ると取れかけた糸を取り除き、糸を切って針に通した。

丁寧にボタンをつける冬海は、確実に変わったと思う。

過ぎるほどの控え目さは相手を諦観させてしまう。

伝染してしまうほどの優しさは彼女の美徳なのに、それが伝わる前に相手は「取っ付き辛い」と諦めてしまうのだ。

その冬海が、もう一歩踏み出すことが出来るようになったと思う。

だから、彼女は苦手な「男性」である自分の目を真っ直ぐ見れたのだろう。

(それでもまだ、損してるんだがなあ)

それが、先刻のプリントの話だ。

だがそれを事も無げにしてしまうと彼女の良さがついえてしまう気もするが。

「出来ました」

「悪いな」

差し出された白衣を確認すると、ボタンは丁寧に付けられているが、ほつれていた右袖口も繕われている。

「ん?袖んとこも直してくれたか」

「あっ余計なことだったらすみません……」

やはりそんな劇的には変わらないかと苦笑した。

「いいや。助かった。長いこと引き止めて悪かったな、そろそろ戻らんと昼飯食いっぱぐれるな」

「あ、はい…」

白衣に袖を通し、腕時計を見やれば昼休みが終わるまであと二十五分ほど。

置いていた教科書と筆記用具を取り、音楽室の扉に手を掛けた。

「じゃあな」

ひらひらと手を振った金澤に、冬海は小さくお辞儀をして、秋の日だまりよりも柔らかに
笑った。

「失礼します」

扉が閉じる音を聞きながら、金澤は一瞬息が詰まった。

楚々とした花が、誇るでもなくただ有りのままに咲く一瞬を見たら、こんな気持ちになるのだろうか。

雨風となり得る、彼女の心を痛ませるもの全てから守りたいと、一瞬それだけが金澤を支配した。

「………美少女だとは思ってはいたが」

やはり勿体ない。

だが、あれ程可憐に微笑んだ彼女を数多に知られるのも惜しい気がする。


胸に宿った微かに甘い余韻に気付かないまま、金澤は準備室へと歩いた。

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