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オレオ

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2012.09.24 Mon 「 It cuts completelyコルダ 柚木×香穂子
香穂子が気になって辛辣に当たる柚木。
「……なんなんですか」

叶えるつもりなんて、なかった。

一日一度だけ、ただ遠くから見ることが叶えばそれでよかった。

誰にでも優しいひと。

思慮深くて、それこそフルートの音色のように笑顔が綺麗なひと。

誰にも言わなかった想い。


柚木梓馬という人間に恋をしていたのではなく、絵に描いたような柚木梓馬という偶像に恋をしていた。

恋を、していたかった。

ぐるぐると形を変えた想いは、恋よりもずっと辛辣なもの。













「物好きだな、お前」

唯一香穂子だけがいる屋上に、その声が響いた。

にべもないその言葉に香穂子は思わず頬を引きつらせた。

柚木が指しているのは間違いなく昨日のこと。

香穂子としても決して忘れた訳でも傷ついていない訳でもないが、ほんの少し、夢見たいな願望はあった。

柚木本人の第一声で砕かれたのだが。

消え失せた初恋が痛むことに今は目を瞑っても良い筈だ。

「あんなことされたのに、僕に会いたかったの?日野さん?」

「ここで練習したかっただけですっ。柚木先輩は一ミリも関係ありませんよ」

ぴしゃりと出来るだけ突き放すように言ったにも関わらず、柚木は楽しげに、酷薄に笑った。

「……なんなんですか」

「おれの目に狂いはなかったな。

泣かせるならお前みたいなやつが良い」

「…嫌いだから泣かせるって小学生じゃないんですから」

はぁ、と溜め息を吐いてヴァイオリンを構えた。

弓を引こうとしてぴたりと止まる。

「……聴くんですか?」

「だからいるんだよ。

心配しなくても目も当てられなかったら慰めてあげるよ」

にっこりと笑った柚木は相変わらず綺麗だが、「慰め」が「悪態」であることは火を見るより明らかだ。

「………あたし、泣きませんよ」

一呼吸のあと、高い澄んだ音が屋上の空を包んだ。

昨日押しつけられた肩には、一切の余計な負担がなかった。













「音は悪くないけど姿勢だな」

「は?」

最後の一音の余韻が消えた頃、柚木が口を開いた。

「春言っただろ。姿勢は大切だ。人の忠告は聞け」

「はぁ…」

「基礎体力が無いから段々姿勢が歪むんだよ。

アンサンブルの合間に体力作り始めろ」

「あの……」

「なんだ?」

足を組んで座っている柚木に、何故か立っている香穂子が見下ろされている気分になった。

「何ていうか…先輩が今アドバイスしてくれるとは思いませんでした…」

言うと柚木は鼻で笑い、組んでいた足を組み替えた。

「少なくともおれは礼儀知らずじゃないね」

優然と笑っていた柚木不意に眉をしかめた。

それを香穂子が見つけたのと同時にかたんとドアの取っ手が下ろされる金属の音がした。

「いた、日野さん」

にっこりとそのひとは人好きのする笑みを浮かべた。

「加地くん!どうかしたの?」

「これって用は無いんだけど、会いたくなって……っと、こんにちは、柚木先輩」

「やぁ加地くん」

加地とはまた別の種類の笑みを浮かべる柚木に香穂子は頬が引きつりそうになるのを懸命に堪えた。

「用…そうだな、日野さんのヴァイオリンが聞きたくて、かな?」

「ほんと?ありがと」

加地の用事を完遂するべく、ヴァイオリンを演奏する体勢を整えた。

「わっ」

突然香穂子に追い討ちをかけるような突風が吹いた。

「び、びっくりした…」

風はすぐに止み、乱れた髪を抑えながら香穂子は何も無いのに風が吹いた方向を振り返った。

が、そこには柚木がいた。

一瞬呼吸が止まる。

驚いたからではなく、柚木の目が、「迷子」という単語と結び付いた。

香穂子が名前を呟こうとしたときにはその印象は跡形もなく拭われていた。

「髪、鬱陶しそうだね」

ゴムはあるよ、と香穂子の肩を押して真後ろを向かせ、さらりとその長い指が香穂子の細い髪に触れた。

纏めるためにうなじを指が掠め、ひくりと肩が震えた。

空気だけでやわやわと首を締められているような、感覚。

「日野さんっ」

風に煽られ目にかかる髪を抑えながら、加地は苦笑に近い笑みを浮かべていた。

「……思い出した。

今日の数学、僕居眠りしちゃってノート取ってないんだ。

…見せてくれないかな?」

「え、あ……」

反射的に後ろの気配を探った。

纏められていた髪は離され、はらりと香穂子の背に戻った。

「………失礼します」

素早く柚木に一礼して、加地の方へ小走りで向かった。

一変した柚木の印象と、さっきの瞳はかけ離れていて、声のかけ方がわからなかった。

またあの瞳を見ることが怖いと思った。

加地が最後会釈し、見送る形になった柚木の髪を風が煽る。

押さえない濃紫の糸のような髪はただ千々に乱れる。

髪の切れ間に覗く琥珀の瞳は凍えた色をしていた。













教室には誰もおらず、差し込む茜色が教室を透明度の高いその色に染めていた。

「えーっと…あった!」

加地に請われ数学のノートを机の中から探し、差し出した。

だが加地は微苦笑を浮かべるばかりで、受け取る様子はない。

「?加地くん?」

「……ごめんね、嘘、なんだ。しっかり取ってた」

「嘘?」

加地は自分の音楽を好きと言ってくれていた筈だ。

「……連れ出したのは、柚木先輩に嫉妬したから」

「え……」

「教室に連れてきたのは、二人きりになれると思ったから」

「加地く、」

「僕は君の音に憬れて、ここに来た」

加地の明るい色の髪が鮮烈な茜色を受けて跳ね返す。

「ここにきて、君自身に憬れた」

香穂子の手をそっと取る。

まるで壊れ物を扱う程のゆったりさに、昨日の柚木を思い出す。

行動は仮に香穂子が壊れ物でも気にしない風に扱ったが、痣になることも痛むこともない。

きゅ、とほんの少し手を握る加地の手に力が籠る。

押し頂くようにゆっくりと持ち上げた手に、唇を押し当てた。

「すきだよ、日野さん。……僕に振り向いて…」

「加地、くん……」

香穂子の声が微かに震えた。

それに気付いて香穂子の手を開放し、加地は困ったように笑った。

「ごめんね、困らせたり怖がらせるつもりはないんだよ…。

ただ、どうなっても良いから、少しで良いから、考えてて欲しい」

ゆっくりと確かに頷いたのを確認すると、加地は自分の机の上に置いていた鞄を掴んだ。

「…僕は帰るね、日野さん」

俯いて呆然としていた香穂子に投げ掛けるように言うと、足早に教室を出た。

「か…加地くんっ」

教室の戸を開ける音で我に返ると、香穂子は廊下に出て小さくなっていく加地の背に叫んだ。

「また明日…っ!」

振り返って目を見はった加地はその表情を緩め香穂子に手を振った。

好き?あたしを?

…加地くんが。

好きだと思う。

だけどそれが恋愛感情かと言われるとそうではない。

だが、ずっと優しく見ていてくれたひとを傷つけるのかと思うと気が沈む。

「…………」

立っていたところで埒は開かない。

明日加地に自分の気持ちを伝えて、友達でいたいと言おう。

心に決めて一旦中へ戻ろうと踵を返した香穂子が後ろ手で閉めようとしたドアが、それよりも強い力で引き開けられた。

「きゃ……」

中へ押し込まれ、ピシャンと拒絶の音を立て閉まった。

「ゆ、のきせんぱ……」

突然の事態を飲み込めず見開いた香穂子の瞳に映ったのは柚木は至近距離から凍付いた瞳で香穂子を見下ろしていた。

香穂子はその瞳を昨日、見た。

だが、昨日よりも怒りの色が俄かに映る。

「な…なんなんですか……」

柚木の瞳の色に恐怖に似たものが背筋を滑り落ち、それを隠そうとして言葉を発したが、声が震えた。

否、声が震えていなくても言葉を発した時点で香穂子が負けた。

「お前、昨日あんなことあったのに今はもうあいつのことで一杯?単純だな」

そんなこと、言われる筋合い無い。

勝手にひとの恋心踏み荒らして、なのにアドバイスしたりなんてして、何故。

驚きで思考が回らなかった昨日よりも耐性がついた今、ふつりと怒りが揺らめいた。

「そんなの、どっちだろうがあたしの勝手です!

あたしが気に入らないなら、嫌いなら構わないでくださいっ!

あたしだって……っ」

「っ、」

「きゃ……」

香穂子に伸ばした柚木の手から自分を庇うために手を翳したが、パシッと勢いよく払われた。

「お前が……っ!」

言いかけ、柚木ははっとした。

(何を……)

何を言いかけた?

思考が白か黒かわからないものに塗り潰される。

「……、柚木先輩……?」

苦しさで詰まり気味の香穂子の声に我に返った柚木は何処からか与えられる苦痛に耐えるように、柳眉をきつく寄せた。

そろりと香穂子の制服から手を離した。

「……構うなって言ったな。それ聞いてやるよ」

低く掠れた声は小さかったが、音量のほか響いた。

「先輩、」

「悪かったな」

香穂子の顔を見ずに柚木は体を翻した。

普通科の教室から練習室へ向かう。

出来るだけ周りの声を聞こえない振りで押し通し、それが駄目な相手には「急いでるから」と返し足早に空いていた適当な部屋へ入り鍵を閉めた。

かちゃん、と軽快な音を聞いて、ずるずると壁に座り込んだ。

腑に落ちればすとんと石で安定を取ったように苛立ちは掻き消えた。

だが別の感情がざわざわと心を捏ね回す。

漸く香穂子に感じていた苛立ちの原因を知った。

今はもう遅い「正解」を探してふと気付いた。

本当に大切なものの手に入れ方を知らない人生を送ってきたのだ。

その必要がなかった。

必要なのは、諦めることだった。

「……喜劇にもならないな…」

好きだった、なんて。

するりと逃げた、香穂子の髪の感触だけが手に残った。
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