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オレオ

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2012.09.18 Tue 「 flowering dogwoodコルダ 柚木×香穂子
backstage」の続き
先に読んで頂いた方がわかりやすいです。
香穂子出ませんが柚香前提。
「ああ…タイピンを無くしたみたいなんだ」

夕陽が差し込む教室に、少女はひとりでただ自分の机に座っていた。

手の中には、くすんだタイピン。

この学校の音楽科女子の制服には本来不必要なものだ。

視線を落とし、重い溜め息を吐き出した。

偶然拾ったものだが、未だ返せていないのは自分だ。

この数時間、返そうと思えば返せた。

だが、返してしまえばもうよすがが無くなってしまうように感じた。

柚木から見て、自分はクラスメイトから一歩たりと進んでいないのに。

コトリと音を立てて鉛の重さの罪悪感が落ちて溜まっていく。

その度に溜め息を吐き出すが、効果的では無い。

もう、返してしまおう。

教室には自分ひとりなのだから、このタイピンの持ち主の机の上に置いていても誰かが拾ったのだと思う筈。

直接ではないの返しそびれた自分への戒めだ。

タイピンと一緒に、この想いも置いてしまえば良い。

一思いに椅子を引いた。

ガリ、と鳴った音と同時にもうひとつ音が鳴った。

咄嗟に手の中のタイピンをポケットに押し込んだ。

引き開けられたドアの向こうにいたのは、濃紫の髪の。

「柚木、くん…」

放課後の教室に人がいたことに驚いたのか、軽く目を見張った。

「驚いた……というか驚かせてしまった?」

ごめんね、と謝りながら柚木は自分の机へと向かった。

だが座るでも机の中を検分することもなく、机の周りに視線を這わせた。

「どうかしたの…?」

「ああ…タイピンを無くしたみたいなんだ」

どきりとして息を呑んだ。

あからさまに不自然だったが、タイピンを探すために膝を折って床を見ていた為にその様子は見えなかった。

「や…ぱり、アスコットタイってタイピンがないと困るものなの?」

「いや…ベスト着ているし…火原が注意を受けないくらいだから、タイピンが無くても怒られることはないと思うけれど」

タイピンはやはり見つからず、柚木は諦めたように微苦笑し、自分に視線を向けた。

「知り合いに渡そうと思っていたんだ。

…もうすぐ僕らは卒業してしまうから」

「………恋人………?」

ともすれば騙し絵のように、微苦笑はするりと微笑へと変わった。

どれだけ言葉を尽くすよりもあからさまな肯定。

微笑はいつも見ていたけれど、感情が、恋が、その笑顔に介入するだけでこんなにも違う笑顔になる。

視線は合っているが、どうやっても自分は視界に入らない。

昼に思い知った敗北感が、さっきの罪悪感の上にのしかかる。

せめて、これだけでも。

この敗北感と罪悪感が、涙になる前に。

「柚木くん」

声が震える。

だけれどそれも、押さえ込んで。

「ああ、引き止めてしまったかな」

ふるふると首を振って、スカートのポケットに手を突っ込んだ。

引き抜いて差し出された手の中には、少し剥がれた金メッキの小さな棒。

さっきよりも柚木の目が大きく見開かれた。

「これ……」

「昼休みに拾った、の」

すぐに返すべきだった。

そう思って、否、それを口実に接点が欲しくて森の広場まで追いかけた。

遠目だったけれど、クラスやあの親友といるときよりも砕けた雰囲気で笑う、柚木を見て、傷付いて、恋心を知った。

「でも、あたしじゃ駄目だっていうのも、わかってたの。

喩えヴァイオリンを専攻しててもヴァイオリン・ロマンスは起こらない…。

あたしは、あの子みたいになることしか考えられない」

あの少女は、真正面から自分をぶつけにいったのに、どうすればあの子の真似が出来るかと考えてしまう自分では話が違う。

話にも、ならない。


「……有り難う」

声が聞こえたかと思えばハンカチが差し出された。

漸く自分が泣いていることに気付いたが、ハンカチは受け取らなかった。

代わりにその上にタイピンを置いた。

「タイピン隠して、泣いて、想いだけ伝えて、あたしは何もしてない…」

「………香穂子と付き合ってから、」

柚木から出た、あの少女の名前を穏やかに聞けた。

「僕を好きだと言ってくれる娘はいたけれど、香穂子を認めてくれたのは初めてだよ」

だから、有り難うと。



少女は背筋を伸ばした。

笑え。笑え。

嘘でもなんでもいい、笑え。

だが少女の予想に反して、思っていたよりも自然に笑えた。

楽器を奏でる手を、差し出した。


「貴方が、好きです。

あともう少し、クラスメイトとして宜しく」

柚木は柔和な笑顔と共に差し出した手を軽く握り返した。

叶わなかったけれど、貴方に恋をして良かった。



どうか彼が愛した彼女が、永遠に彼のそばにいますように。


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