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オレオ

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2012.09.22 Sat 「 A qualification to walk the neighbor,A qualification to work the futureコルダ 柚木×香穂子
柚木の婚約者の話【3】
(憧れで、こんな顔しないわよ)

以心伝心で全て叶っても、やっぱりあたしは貴方と話がしたい。

心地良い低い声に頬を緩ませながら。

他愛も無い話。

くすぐったい愛。

翻弄させられる意地悪。

伝えてくれる事を一つ一つ、拾い上げながら想いを手繰ってく。










「良いんですか……?」

そんな事言って、と消え入りそうな震える声で言う香穂子の声に溜息を吐いて少し話を変えた。

「そんな事どうでも良い。

……それよりおれの前から消えれると本気で思ってるの?」

それは一週間避けた事に対してか、これからに対してか、柚木すらわからない。

声色は冷ややかでは無いものの、怒っていると知れる視線を伴って香穂子に届いた。

それに耐えれず、目を瞑って俯いた香穂子の頭上で、そうじゃない、と髪を掻き上げる気配がした。

「違う。そうじゃなくて」

はあ、ともう一度溜息を吐くと、香穂子をやわやわと抱きしめた。

「ゆ、」

「こうやって泣かせたくないから黙ってたのにな」

破談にさせるつもりだったものをわざわざ告げて杞憂で悩ませたり泣かせたりする趣味は無い。

逆に不安を煽る要素だとしても、言いたくなかった。

言えば、香穂子が自分の為に、と離れていく事など、目に見えていた。

例え他の何が消えても、傍にと想ったものだけは守りたかった。

幼心に続けたい気持ちを殺したピアノも、自我も、守り貫く事はしなかった。

せめて、香穂子だけは、と。

そうしてその結果が、今腕の中にある。

泣いても傷ついてもすきだと言ってくれる。

己と同じように傍に、と想ってくれている。

ゆるゆると回された腕があたたかい。

「ごめ、なさ……」

離れたくないです、と小さな声で、だけれど抱きしめあっている状態では十分な声で柚木の耳朶を打った。

力を込めて、声無き声で応える。

「香穂子、来年から音楽科に転科しろ」

「え……」

「将来音楽を仕事にする気ないの?」

「出来たら楽しいとは思いますけど……」

突然の話の変わり様に戸惑いながらも思っている事を返した。

「……成功する自身がありません」

「香穂子」

言い終わるか終わらないかのうちに、名前を呼んだ。

「おれが予言したんだぜ?」

香穂子は下げていた視線を柚木に合わせた。

視界に広がったのは穏やかな笑み。

「お前なら出来るから。…それに何だかんだで参加者全員、お前の才能を認めてる」

男女比率は面白くないが、それでも喜ばしいこと。

彼らものきなっみなら無い実力と才能を持っているのだから。

「柚木の人たちが望む以上におれも頑張るから」

袖を握る香穂子のてに力が加わる。

「他のどんなことは言う事聞いても、結婚だけは望む通りに出来るようにする」

音楽に未練が無い訳では決してないけれど、たった一つの我が儘を通す為なら。

「…知りませんよ、そんな事言って…」

「何が?」

香穂子の眦に再び浮いた涙を親指の腹で拭う。

「プロポーズですよ、それ」

つ、と拭った手でそのまま香穂子の髪を一房掴む。

「ご不満?」

柚木が髪を掴んでいる所為で首は振れない。

残った意思表示は一つ。

「嫌じゃ…嫌な訳ありません……っ」

「なら笑えよ」

命令口調。

だけれど、その声も瞳も、ただ優しく甘い。

愛されていると感じる声音。

言われ、睫で涙を弾かせ、笑顔を見せた。

更に綺麗な笑顔を返しながら、柚木は心の中で呟く。

これだけは言えない、と。

それは香穂子との仲を大っぴらにしない理由。

周囲に言ってしまえば、自分に近づいてくる香穂子に対して取り巻きは黙る。

香穂子の周りにうろつく、特に二年生の二人には良い「虫除け」にはなる。

だが、家には?

今知られれば確実に仲は裂かれると最早直感で思った。

まさか、と振り払うが、残ったものは不明瞭な不安感。

実現して、いざ香穂子が自分の前からいなくなったとき、そうなれば文句が言える訳が無い。

近くにいて傷つくのもまた、香穂子だ。

ならば。

―――――――全てから守ってやるさ。

この、自分に惜しげもなく向けてくる、笑顔だけは。


















おまけ。

「あ、いたいた」

「火原先輩」

「火原さん、お疲れ様です」

着崩した音楽科の制服が屋上にやってきたのを、土浦と天羽が迎えいれた。

「大丈夫だよ、きっと今頃仲直りしてるから」

満面の笑みで、火原は二人に報告した。

「ったく何やってんだか……」

土浦は香穂子と柚木にとも、やきもきしていた自分達にとも取れる苦言を零した。

「でも良かったよね、柚木だってずっと上の空だったし」

「それにしても…」

これで良かったと思う反面、このテの悶着は解決してしまうと草臥れ儲け感をかじる土浦は安心感が素直に出せない。

そんな土浦と手放しで喜ぶ火原とのやり取りを聞きながら、天羽は屋上の柵にもたれて一枚の写真を翳すように見る。

昨日の昼休みの、香穂子の写真。

彼女は柚木に対する想いが恋が憧れかわからなくなったと言っていた。

(憧れでこんな顔しないわよ)

切なげに柳眉を下げて仄かに頬を染めて訥々と話す様は所謂「恋する乙女」だ。

盛大な溜息を吐かんばかりの土浦と、どうフォローしようか考える火原を見て思う。

もしかしたら、この二人も香穂子が好きだったのかも知れない。

香穂子を見つめて、香穂子の見つめる先を見つけて、彼女は想いを叶えて。

本当に手が届かなくなったところで彼女に想いを告げるのを諦めて。

屈託無い笑顔の傍にいるうちに、恋慕は友愛に変わって。

(ホントのことなんてわかんないけどね)

野暮で嫌だねー、職業病かしらー、と学生の本分を遥か彼方へ追い遣り、嘯いた。

彼らの想いは知れないが、確かなのは一つ。

自分も彼らも、やはり香穂子が大切なのだ。

柚木とは形は違えど、大切だから彼女の笑顔を守ろうとやきもきしてしまう。

明日は、大切な友人の笑顔に出会えるだろうか。

そう思ったかはやはり知れないが、天羽は不毛なやり取りにケリを着けさせるために、声をかける。

写真の行き先を、写真に写る少女の恋人へと決めて。

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