「ゆのたん」さま提出作品。
「何の捻りもない祝辞を有難う」
その日、柚木が目覚めて一番最初にしたことは溜め息だった。
自分が生まれて三六五日、時々もう一日プラスされた日が訪れた十八回目の自分の誕生日だ。
歳は取りたくない等とぼやく歳でもない。
柚木にとって憂鬱なのは、今日が十八回目ということだ。
「お疲れさまです、柚木先輩」
「…お前か」
梅雨の晴れ間に訪れた柚木の誕生日は一部の女子生徒、というよりも一部以外の女子生徒にとっての一大イベントらしい。
柚木は朝から今の今まで相手をしたくもない人間の相手をし、欲しくもないプレゼントをその腕に抱えていた。
待ち合わせた屋上で八つ当たり気味に無下な認識をされた香穂子の「お疲れさま」は両方を含めている。
「ひとまず誕生日おめでとうございます」
「何の捻りもない祝辞を有り難う」
「……一般的な祝辞に文句つけないでくれます?」
ふん、と鼻を鳴らした柚木の隣りに憶することなく香穂子は座った。
香穂子が喋るかどうか気に留めず、ただ存在を感じながら、山になったプレゼント群を無感動に、石ころを眺めるように見下ろした。
何が、誕生日だ。
この日がどういう意味かも知らずに。
「おめでとう」よりもいっそ「お悔やみ申し上げます」くらいが痛快で面白い。
十八になれば、結婚が出来る。
祖母により気がつけば無理矢理見ず知らずの女と入籍ということが有り得る。
香穂子を、例えば今すぐにでも手に入れる方法は知っている。
それをすれば家から勘当を申し渡される筈だ。
それは願っても無いこと。
だがそれでは香穂子の人生を狂わせる。
香穂子が大切だから、出来もしないのに彼女の人生を背負うと言うことは、出来ない。
望むのは、そんな手に入れ方ではないのだから。
だからもしも、そうなれば。
「おれが、別れようって言ったら、どうする?」
緩慢に香穂子が首を巡らせたのを気配だけで知る。
柚木は香穂子から目を反らしているために見えない。
見つめているのは数ヶ月隣に座る彼女と共に会った景色か、無彩色の未来か。
「先輩が別れようって言ったら、泣いちゃいます」
穏やかな香穂子の声音に、思わず香穂子を見た。
視線がかち合う。
「だけど、それでも好きです」
「……おれを忘れても構わないぜ?」
香穂子の哀しそうな微笑に、するりとそんな言葉が出た。
「そんなこと、思ってもないでしょう?
……柚木先輩は悪いひとじゃないけど酷い男だから、忘れさせませんよ」
声音におどけたものが混じるが、やはり哀愁に似た笑顔は変わらない。
「だから、何があってもすきなんです」
言って、体を浮かせた香穂子は柚木の睫毛に軽く唇を当てる。
ひくりと、瞼が震えた。
「あたしが、別れましょう、あたしを忘れてくださいって言ったら、出来ますか?」
破顔した筈の柚木の表情は、泣き出してしまいたいような笑顔になった。
「酷い女」
それが、答え。
少し上にある香穂子に下からキスをした。
喩え、明日別れが来るとしても。
「簡単に離れてあげませんから」
どうして、嬉しいことばかり言うのだろう、何にも代え難い愛しい存(ひ)在(と)は。
「待っておけ」
口接けていた香穂子の唇を指でなぞる。
「明日別れが来るとしても、必ず迎えに来るから」
誕生日に、優しい未来をくれた恋人を。
ゆのたん参加作品/お題:
モモジルシ 管理人:桃子さま
DARLINGより
PR