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オレオ

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2012.09.22 Sat 「 I go to meet youコルダ 月森×香穂子
HP「オレオ」の7万打お礼小説。バレンタイン話。
アンコールED前提2ED一年後。
「土曜日、王崎先輩と出かけるの?」

「大学はね早くに決まったんだけど、一般で受ける子と一緒に勉強してたの。

覚えること凄くあるんだね」

『君のような始め方はなかなかないだろうから…だが、次に会う時だ楽しみだな』

寛いだ月森の声が機械を通して香穂子の耳へ届く。

国際電話になる為、毎日電話をかけることはない。

仮令かけることが出来ても、月森はお互いの為に頻繁にはかけてはこないだろう。

「会えたら」と話しても、最後に会ったのは、去年の春の、空港。

香穂子が頻繁に手紙を送って、月森がそれに電話か手紙を返す、という形が出来上がっている。

寂しい、けれど。

『香穂子、そろそろ……。そちらはもう零時近くだろう?』

「あ、うん。…また、電話するね?手紙も……」

『ああ。……楽しみにしている。風邪と怪我には呉々も気をつけてくれ』

「ふふ。うん。じゃあおやすみなさい」

プツリ、と月森が電話を切るのを待って、香穂子も終話ボタンを押した。

いつもは話していたあとの静寂は、孤独感と涙を誘ったけれど、今日はそれを堪え、代わりに手帳を開いて等間隔に記された日付をなぞった。

月森が日本を離れ、あと二ヶ月と少しで一年が経とうとしていた。
















「お願いっ笙子ちゃん!」

「あ、頭をあげてください先輩……っ」

聞き覚えのある声が聞き覚えのある名前を発し、それに最近の記憶よりもずっと戸惑った声を聞き、天羽は足を止めた。

「………香穂子?冬海ちゃん…?」

思わず声をかけた天羽は、二人から同じように救いを求めるような眼差しを向けられて後悔した。

「え?何があったの……?」

半ば本気でたじろいだ風の天羽に、香穂子は微苦笑した。

「いや、実はそんなに大したことじゃないんだけど……笙子ちゃんにトリュフの作り方、教えて貰おうと思って」

「断るつもりはなかったんですけれど……その、先輩が頭を下げられたので、驚いてしまって…」

要は香穂子の気迫に気圧されたらしい。

けれど天羽はその作り方如何よりも気になったことがある。

「わざわざトリュフ作るってバレンタインだからでしょ?手作りを郵送するの?国際で?」

「う……まあ、ね」

今の季節にクール便を取り扱ってるかも定かではないが、もし使えても梱包材が孕む熱で、普通のチョコならともかく作る行程で柔らかくしてしまうトリュフは溶けてしまうのではないだろうか。

というか、本人に届くまでの日数を考えると友人として止めなければいけない気がする。

「ねえ香穂子、悪いこと言わないから月森くんに送るのにそれはやめておいた方が……」

「違うの、そんな心配してるようなことしないから……」

ね?と笑顔を浮かべる香穂子に、天羽と冬海は顔を見合わせた。

「作り方、教えて欲しいの」

「それは幾らでも構いませんけれど……」

言ったところで、携帯のバイブ音が聞こえた。

電話らしく、あ、とポケットを押さえて冬海に小さく謝った香穂子は携帯を耳に当てた。

三歩ほど離れた香穂子の表情がパッと明るくなった。

「王崎先輩!」

その名前に、天羽と由風味は顔を見合わせた。

幾つか言葉を交わし、また土曜日お願いします、と言って香穂子は電話を切った。

「と、ごめんね」

「香穂」

「ん?」

「土曜日、王崎先輩と出かけるの?」

「へ?うん」

あっけらかんと答えた香穂子に毒気を抜かれた天羽は、それでも親友の想いを探ろうと思い返す。

休日に、わざわざ他の男のひとと出かける、意味。

簡単に人を裏切るようなタイプではないと知っているだけに、余計に戸惑う。

一昨年の、クリスマス。

春のコンクール中に彼が好きだとこっそり打ち明けてくれた香穂子の想いが実った日。

嬉しそうで、楽しそうで、幸せそうで。

冗談では言っても本気で記事にするつもりのない写真を撮って。

どれだけ好きか、知っていたから自分も嬉しかったのに。























ウィーンの冬は日本よりも寒い。

暑い夏よりもどちらかと言えば冬の方が好きな月森には日本よりも過ごしやすい気がする。

が、寒いと指がかじかんでしまい、それによりある程度暖めないと演奏が出来ない、というものは辛い。

日本の冬でも変わらないが、そのタイムロスはやはり不愉快だった。

外から帰ってきたばかりの月森は部屋の暖房を入れ、それが効き出すころには練習を始めたくて少しでも時間を縮めようと指先を擦り合わせ、息を吹きかけた。

先ほどまで市立の図書館へとでかけていた。

目当ての本を見繕い、その場で読まずに貸し出しの手続きを取って家に持って帰ってきた。

今は丁度昼の三時を回ったところだ。

大体、今の時間に香穂子からの電話が来る。

香穂子の生活リズムから電話をかける時間がわかるほどに、香穂子からの電話をこの一年弱受けた。

正確にはかかってきたというよりもかけさせてきたのだろう。

彼女は「寂しい」とは言わない。

言わない代わりに、自分が日本にいた頃と変わらず、電話で他愛も無い話をする。

最初の頃は、本題が掴めず「結局何の用だろうか」と訪ねたら「声が聞きたかっただけ」と拗ねたように呟いた香穂子を、然して口がうまいとは言えない自分が必死に取りなしたのだ。

(たまには……)

自分がかけてみようか。

受話器を取った。

こちらでの時間は昼を過ぎたところだが、日本時間はもう夜の十一時をさしている筈。

そんな時間に彼女の家の電話を鳴らす訳にもいかず、もう覚えてしまった香穂子の携帯電話の番号。

結局何を話していいかがわからず、コールがかかる前に切ってしまうことのほうが多かったけれど。

ゆっくりと確実に、間違えないようにボタンを押していく。

と、不意に電話が鳴った。

びくり、と肩が震えた。

香穂子からかかってくることが多い時間帯とはいえ、同じ香穂子のことでも別のことへと思考をやっていた月森は寸でのところで受話器を落とさず、通話ボタンを押した。

『あ、月森くん?』

「香穂子。どうかしたか?」

『あー……うん、特にこれっていうことじゃ、ないんだけど…』

「?」

いつになく歯切れが悪い香穂子に、月森は無言で訝った。

自分を落ち着かせるように、香穂子が肺に満たされた空気を吐き出したのが聞こえた。

『ヴァイオリン、聴いて欲しいの』

月森の答えを聞く前に香穂子は携帯電話をハンズフリーでの通話状態にして床に置いた。

ヴァイオリンはあらかじめケースから出していたらしく、すぐにヴァイオリンの音色が聴こえてきた。

感傷的なワルツ。

彼女がまだこの曲が弾けない頃に出会った。

「弾けるようになったから聞いて!」と自信満々に言ってきた彼女が弾いた曲は、自分から言わせればまだまだ改善点があって、けれど惹かれて。

「………?」

ふと、電話から聴こえる音色の違和感に気づいた。

音が、おかしい。

左耳に当てている携帯の、機械を通した彼女の音色が、右耳からも聴こえる。

但しこちらは機械ではなくーーーー。

「………ッ!」

携帯を握りしめたまま、扉を力任せに開いた。

「あ………」

遮るものがなくなってクリアになった音色。

もう見慣れた景色に、まるで貼付けたようにヴァイオリンを構えて佇む、香穂子がいた。

ぴたりと音色が止まる。

記憶よりも彼女のその姿はずっと堂に入っているように感じる。

髪が伸びた所為か、少し大人びて見える。

記憶との差異すべてが、離れた距離を見せつける。

けれどふわりと笑った香穂子の笑顔が、それを埋める。

「ウィーンの冬って本当寒いね。

ヴァイオリン弾けるまでに暖めるのに缶コーヒー買っちゃった」

変わらない香穂子の本質に、安心する。

「香穂子……」

「バイトしたの。王崎先輩に紹介してもらって、ヴァイオリン教室の、お手伝い」

「香穂子」

「バイトって初めてだったんだけど、大変だね。

ヴァイオリン弾くの好きだけど、教えるってやっぱりまた違うし」

「香穂子」

「…会いたかったの」

声に涙が滲み出す。

香穂子は泣く寸前の無理矢理作った笑顔を向けた。

「さみし、かったの」

弓は降ろしたが、肩にヴァイオリンを乗せたまま大きな瞳でも堪えきれなかった涙をぽろぽろと落とした。

「学校行っても、街を歩いても…蓮くんと過ごしたところだから、色んなこと思い出すのに、居ないんだもん……」

寝惚けた朝の学校へと歩く道にも。

視線だけで追った廊下にも。

チャイムで漸く時間を知るほど演奏に没頭した練習室にも。

別れたくなくて寄り道した公園にも。

何処に行っても思い出はあるのに、切り取ったように月森だけがいない。

その差異が痛い。

「寂しかった………」

絶対に言わなかった科白。

責めてしまうようで、嫌だった、けれど。

「俺も、全く平気だった訳じゃない」

声にはっとして、いつの間にか落ちた視線をあげると、眉を寄せる月森がいた。

「君に会いに帰ってしまおうと思わなかったと、君は思うか?」

眉を寄せたまま、困ったように笑って月森は香穂子の頬を滑る涙を拭った。

「君が日本で頑張ってると言うから、……君に、恥じたくなくて」

結果論を言えば、香穂子がこの一年足らず積んだ知識は月森にはまだ遠く及ばない。

年数や積み重ねてきたものがまるで違う。

けれどそうではなくて。

彼女が沢山のものを手に入れた一年、自分は何を手に入れたか。

何を感じて、何を想って。

彼女に、恥じたくはなかった。

彼女が目指すところが、自分であって欲しかった。

そうすれば、香穂子との永遠を手に入れてしまえる気がして。

「寂しくない、なんて言ってはいない」

「ほんとう………?」

月森が拭ってから止まった涙をまだ溜めたままの瞳で見上げ、訪ねる香穂子に月森は苦笑した。

本当に香穂子しか見えていないというのに、何故かこれだけは自分が香穂子の演奏を褒めるより説得力が無いらしい。

肯定の代わりに月森は弓を握ったままの香穂子の手を引き、家の中へと引き入れた。

「届けものがあるの」

「?」

香穂子が提げていた鞄から、薄い水色と濃いめの蒼のカーリーリボンと少し紫がかった青のラッピングペーパーで包装された、手のひら大の箱を差し出す。

少し泣いたあとが残る香穂子の笑顔はそれでも、否、月森の為に泣いたからこそ輝きを増した。

「バレンタインだから、チョコと、恋心を届けにきたの」

訝るような月森に対峙した香穂子は背筋を伸ばした。

会えない間、そうやって向き合えるだけのことをした自信があるから。

「何度離れても、どれだけ遠くても。

あたしに、恋をしてくれますか」

言葉より明確な答えが在る、なんてことは月森はあまり思わない。

思わないけれど、何度か思ったそれは大抵香穂子にまつわることだ。

そうして今も、月森は口を開くよりも、差し出された心ごと、香穂子を抱きしめた。





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