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オレオ

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2012.09.22 Sat 「 触れてもいい?コルダ 志水×冬海
「志冬御籤」さまに投稿作品。
「夕焼けが、凄く綺麗で」


あなたを形作るもの、全てが。














正門前で見慣れた後ろ姿を見つけ、冬海はほろりと花が綻ぶように笑みを浮かべた。

「か、香穂先輩っ」

以前の、ほんの数ヶ月前までの冬海には、人前で大声を出すだなんて、考えることすら出来なかった。

変えて、受け入れてくれたそのひとは声に振り返り、冬海を見ると綺麗に笑った。

「笙子ちゃん!今帰り?」

「はい。あ、本屋さんには寄りますけど…」

「そっか、じゃあ途中まで一緒に歩こう?」

そうやって並んでくれることがどんなに嬉しいか、伝えられたら良いのに。
















「何の本見るの?楽典かなにか?」

「いえ…印象派の画家ばかり集めた画集が欲しくて…」

芸術の一括りでは同じだが、分野違いに目をしばたたかせた香穂子はややあってああ、と瞳を微笑ませた。

「そういえば、美術も好きだったね」

多才だねーと笑った。

香穂子と出会って数ヶ月、彼女は何かにつけ自分を褒めてくれる。

勿論そればかりじゃないが、叱咤するときもさり気なく、落ち込むばかりにならないよう褒め言葉を交ぜてくれる。

それでも慣れず、頬に孕む熱を感じながら冬海は俯いた。

(あ、)

偶然俯いた、その先。

印象派のきっかけとなった絵が表紙の本をみつけた。

これじゃないとと決めていた本がある訳ではないのでそれを手に取る。

「見つかった?」

「はい……やっぱり、綺麗ですね」

ぱら、とページをめくる。

一ページに一枚の絵が挿入され、補足説明がその脇に添えられている。

「これ、前一緒に行ったときにあったよね?」

冬海は思わず顔を上げた。

もっと暖かい季節に香穂子と行ったときに確かに展示されていた。

もう随分前の話だ。

否、日数では数ヶ月前だが、とても以前に感じるほど目まぐるしい時間だった、のに。

「あたしもこの絵好きだよ。優しい雰囲気だよね」

つい、と補足に書かれている作者の名前をなぞった。

「…絵画では光を描く時代だったんです。太陽も、光を反射する水面も、陽射しも。

光を見過ぎて失明されたひとが沢山いるくらいに」

もしも自分がクラリネットに出会わず、絵画へと進んでいたら、こんな雰囲気の優しい絵が描きたい。

柔らかく、平面の世界へ光を溶かし込んで日だまりのような。

だけれど音楽で今の自分の何かを失うのは、こわい。

ふ、と人影が脳裏を過ぎる。

余りにも似合い過ぎて認めたくなかったのかも知れない。

だけれどもう認識してしまった。

気付けば、口の中だけで呟いていた。




日だまりが似合う、何にも揺るがずに追い求める続ける彼は、恐れないのだろうか。




















本を買って香穂子と別れ、駅へと向う。

さく、と落ち葉を踏み締める。

時折はらりと舞い落ちる銀杏の葉のように、何かが重く積もる。

彼らが払った描くことの代償が失明だったように、彼は何を犠牲にするのだろう。

あの果てることない情熱が追い求める道が求める代償。

それが、彼自身なら――――――。

「――――」

感傷的になりながら歩いていた景色の中、違うものをみつけた。

「し、志水、くん…?」

駅より手前にある森林公園の木に寄り掛かって船を漕ぐなんてことは彼しかしない。

学校で見かける分には起こしちゃいけないとゆっくり遠ざかるのだが、今は秋の夕暮れなのだ。

「志水くんっ」

駆け寄り、申し訳程度に服を引きながら名前を呼ぶ。

意外にも早くとろとろと緑柱石色の瞳を長い睫毛で縁取られた瞼から覗かせた。

「ふゆ、うみさん……」

「風邪引いちゃうから」

ふわりと柔らかに夕焼けを受ける髪を揺らし、微笑する志水にぱっと顔を伏せた。

「えと…何してたの?」

何だったかな、と志水は寝起きで靄がかかる思考を手繰る。

手繰った先に括られていたものを見つけ、冬海を見た。

「夕焼けが、凄く綺麗で」

「…………」

「何弾こうかなって考えてたら眠くなって…」

寒そうにコートへ軽く体を縮こまらせた。

「大丈夫?」

「ん……寒い…」

ゆっくり息を吐き出して白くなったそれが掻き消える。

「寒いけど、一番に冬海さんがいたのは嬉しかった」

緑柱石色の瞳が、柔らかだが艶のある色素の薄い髪が、綺麗な笑顔が、夕陽に当たって朱さが混じる。

―――――切なくなった。

さっきの絵の印象と相俟って、その笑顔が朱い空気に融けてしまいそうに儚くて、迷子になった子どもの心境に陥った。

心の中で冷たい風が止まない。

なのに、痛いのも苦しいのも冷たいのも、志水だから、何処かあたたかい。

それが愛しい、だなんてまだわからないけれど。

「冬海さん?」

ゆらりと揺れた冬海の瞳を見咎め、つと眉を寄せた。

「志水くん、」

はたり、はたりと零れた珠は地に落ちる前に志水の指で弾かれた。

「ぁ………」

掠れたような溜息のあと、するりと出た言葉に、志水は訝ることなくただ微笑んで首肯した。


――――――触れても良い?





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