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オレオ

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2012.09.22 Sat 「 両想いの片想いコルダ 加地×香穂子
アンコール引継ぎルート「コロンブスの卵」後の加地と天羽。
好かれていることに信用が出来ない加地をお説教。
「乙女心を簡単に分かられちゃ困るよ」


「さっきはごめんね、天羽さん」

「ほんとだよ」

人通りのある廊下でまさかいちゃつかないだろうと思い、友人たちに声をかけたら何故か冊子を大量に持たされた天羽。

放課後に、その荷物を持たせた張本人の加地とカフェテリアにいた。

天羽の前に「お礼」のプリンとカップのモンブランとホットティーがあり、加地の前にはアメリカンコーヒーが置かれている。

顔に似合わないものを飲む、と天羽は心中で何となく悪態にならない悪態を吐いた。

奢らされているにも関わらず、加地はひたすら笑顔だ。

大概何処か楽しそうに人好きする笑みを浮かべてはいるが、それでも普段と違うと思うのは先程の一件と、この数ヶ月毎日のように顔を合わせていた友情の賜物だ。

プリンをプラスチックのスプーンで掬いながら、奢って貰っているからには話を聞いてやるのが礼儀だろうと考えた。

但し根掘り葉掘り聞いたところで、満面の笑みで話すこの男に素直に聞いてやろうとはあまり思わない。

一口食べて、溜め息を吐いた。

「で、香穂とのことは解決したんだ?」

「ふふっお陰様で。女の子って難しいね」

一口コーヒーを啜った加地をちらりと見遣った。

「乙女心を簡単に分かられちゃ困るよ」

そんなものかな、と楽しそうに笑う加地に天羽は癪で意地になっていたものが絆された。

「幸せ?」

天羽の問いに加地は微苦笑し、天羽は眉を顰めた。

「何その顔」

「いや、んー…多分幸せだよ」

「多分?」

何ソレ、と訝った天羽の視線から逃れるように加地は目線をコーヒーに落とした。

「幸せだよ。

香穂さんの音に出会って世界が広がって色付いて、香穂さんに出会って鮮やかになって、今は煌めいて見える」

少しだけコーヒーを含む。

加地の胸中はそのコーヒーと同じだけ苦いのだろうと思う。

「僕の世界がそんな状態になることなんてなくって。

今の煌めきが当たり前になった時にはそれが無くなったら、昔に戻ったら、って思うと」

幸せだけでいられない。

煌めきが無くなったら。

否、香穂子が居なくなったら。

不意に擡げる不安。

その不安を、一度感じてしまったから。

無くすのが怖い。

手に入れるよりも手に入れてからのほうがずっと難しいなんて、知らなかった。

「加地くん」

視線を上げれば天羽が笑顔で手招きしている。

訳がわからないまま、少し前のめりになった。

一層笑みが深くなった天羽は加地の前髪をさっと払い、指弾した。

「いっ…た!……え?」

「あのねえ加地くん!香穂はうっかり馬鹿なことしちゃっても真性の馬鹿じゃないし、優しい子だけど仏じゃないの!」

赤くなった加地の額と、額を押さえながら目を丸くする加地を無視して続けた。

「優しさで付き合ったんでも、しつこさに絆されたんでも、まして別れる予定で付き合ってるんでもないの!

あんたが今回解ったより香穂は加地くんが好きなの!

次言ったら怒るからね!甲斐性無し!」

もう怒ってる、と思ったが、次の瞬間天羽が自棄のようにプリンを怒濤の勢いで食べ始め何も言えなくなった。

だから、代わりに別に思ったことを言った。

「…天羽さんが男じゃなくて良かった」

「ん?」

「天羽さんが男だったら勝てる気がしないよ」

天羽は食べ終えたプリンのカップを避けて、モンブランに着手し、勝ち誇ったように笑った。

「ふっふっふ。香穂あたしのこと好きだからね」

「難しいな…好きでいるのは、ほんと首位独占出来る自信あるんだけど」

顰めっ面で加地は湯気が立たなくなったコーヒーをくるりと回して飲み干した。

冷えて酸味が出て来たらしく、微かに眉を寄せた加地の仕種に、天羽は嘆息した。

「大丈夫だって」

発端はそれこそ犬も食わない痴話喧嘩。

触れるだの触れないだの、きちんと話さえすれば問題にもならなかった。

というか、普通逆な気もする。

面倒臭いと思うけれど、仕方ない。

自分は彼らが好きで、彼らが笑って二人でいるのが嬉しいのだ。

「加地くんがまた訳わかんないことで悩んで、訳わかんないことして、それで香穂が離れそうになったらまたデコピンしてあげるからさ」

加地はぱちぱちと瞬きをして、張り詰めた糸が弛んだように微笑った。

「……有り難う。あ、なにかいる?」

「太るからもう良いわよ。それより…」

「あれ、加地くん、菜美?」

声がしたほうに視線を上げると花が咲いたような笑顔の香穂子。

紙で包んだ中華まんをふたつ持って手が触れない代わりに、零さないように気をつけながら近付いてくる。

「香穂、どうしたのそれ。ふたつ食べるの?」

「違うよー。いっこ加地くんに」

「僕?」

はい、と渡され、加地の手に紙を通してじんわりと暖かさを伝える。

「提案のアンケート出したの加地くんでしょ。通るもんなんだね。あ、あんまんだけど平気?」

「好きだよ。ふふ、ありがと」

加地にひとつ渡して空いた手で天羽の隣りの椅子を引こうとした。

が、天羽に椅子を押さえられた上視線で促され、おずおずと加地の隣りに座った。

(全く……)

真っ直ぐ加地の隣りに座ってあげれば良いのにと、天羽は内心苦笑した。

顔が見やすいから正面、というのもあるが、加地の正面は今は天羽が座っている。

「ほ、ほんとはね、教室で食べようと思ったんだけど丁度良かったね。菜美には私の半分……」

「私はいいよ。加地くんに見返り貰ったから」

「みかえり………あ」

昼休みの一件を思い出したらしく、さっと頬に朱が走った。

「ご、ごめん……」

「良いって。なんかけしかけたのあたしみたいだし」

ひらひらと気のないように手を振った天羽を見ながら、香穂子はあんまんを一口囓った。

咀嚼して飲み込む頃、香穂子は隣りからの視線に気付いた。

「加地くん?」

「すきだよ、香穂さん」

唐突すぎる告白に、香穂子は先程よりも頬を染め上げた。

「な、なに……!」

「香穂さんは?」

「え……ええー……」

おろおろと加地と天羽を交互に見る香穂子の視線が、天羽を捉える三回目に天羽はすっと体ごと視線を逸らした。

「す……すき、だ、よ…」

「…ありがと、香穂さん」

顔を見てなくてもわかるほど、甘さが増した加地の声音に天羽は盛大に溜め息を吐いた。

横目で見ながら、掴んだ冷えた紅茶を啜った。

(なんでわかんないかな)

どれだけ大切か、どれだけ好きか、知らぬは本人だけなのだ。





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