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オレオ

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2012.09.22 Sat 「 one`s loveコルダ 加地×香穂子
嫉妬加地…?
香穂子についてもだもだしちゃう加地。
(何、秘密って…!)


きみがすき。

何百伝えても、何千言葉を尽くしても、何億想っても伝えきれないくらい、きみがすき。

















「あ、加地くん!」

朝の痛いほど冷えきった風を切って、その姿を見つけた途端、メープルシロップ色の瞳を喜色に彩った香穂子は加地を呼んだ。

香穂子が贈ったマフラーに首を埋めた加地がゆるりと、動作の柔らかさと同じくらい柔らかな笑みを作って振り返った。

「おはよう、日野さん」

「おはよ、加地くん。加地くん見えたから走っちゃった」

「ふふっもう少しゆっくり歩けば良かったね」

走って乱れた髪と呼気を整えている香穂子を見下ろしながら終わるのを待つ。

有り難う、と笑う香穂子に、加地にじわりと暖かさが染み渡る。

春には、こんなこと願うことすらしていなかったのに。

香穂子の歩幅に合わせ歩き出した加地に、更なる願いが擡げる。

冷えて赤くなった指先を、あたためることが出来たら。
















適度に暖房の温度設定された教室に入ると縮こませていた体がほぐれ、ほぅ、と息を吐き出した。

もう慣れ切った、香穂子の隣りの席に座り、鞄を横に引っ掛けてコートを脱いでロッカーの中へ入れた。

時間割を思い出しながら、今日自分が当たるものがあるかどうか思い出している香穂子をなんとは無しに見つめる。

最早これは癖だ。

最初は恥ずかしいからと頬を染めて苦言を呈していた香穂子も、数ヶ月経った今は反応が変わった。

「うー…数Ⅱ…当たるかも…」

へにゃりと突っ伏して見上げてくる香穂子は非常に可愛いと思うが、自称文系の加地は今は目を逸らすしかない。

全くもってわからない訳でもないが、時折眉をしかめながら授業を聞いている香穂子に教えれるほど理解しているかと聞かれれば、困ってしまう。

「……がんばる」

「古文なら聞いてね?」

期待してると笑ったのと重なるように、扉が開いた。

始業前なのでさして気に止めていなかったが、影が香穂子に被さった。

「んきゃ…っ」

「香ー穂っおはよ」

殊更甘さを増した悪戯っぽい天羽の声。

香穂子は、大して体重をかけられていない上半身を起こした。

「おはよ、葉美」

「加地くんもおはよ」

香穂子の首に腕を絡めたまま溌剌とした笑みを向けられ、加地は柔和に笑って同じ返事を返した。

「ちょ、菜美っ手!冷た…!」

絡めた腕のどさくさに、天羽は冷えた指先を香穂子の首元に押し当てていた。

「今来たとこなんだよねー寒い寒い」

いやーっと叫ぶ香穂子を見、加地が思わず吹き出すと、香穂子は助けてよぅと頬を膨らませた。

「何やってんだ、天羽」

苦笑気味の土浦の声が頭上からかかった。

「スキンシップの一環だってば」

今度は天羽が頬を膨らませ、香穂子から少し離れた。

離れた要因に土浦に注意されたからではなく、指が温もったからというのが多く含まれているのは天羽の中で深くしまっておいた。

「加地、CDサンキュ。他にもあったら―――――」

「あぁっ土浦くん!」

土浦の話を大音声で遮った香穂子は、がしっと香穂子よりも二回り近く大きな手を握った。

「な、なんだよ…」

驚きの余りCDを持っている手がひくりと跳ねた。

「数学当たるの…っ」

その科白と、香穂子の縋るような目に土浦は軽く頬を引きつらせた。

そうか、頑張れと言えるほど土浦は薄情になりきれない。

「………何処だ?」

何となく、ぎりぎりのところまで甘やかしてしまう。

溜め息を吐いて香穂子の前の椅子に座った土浦は、言動ほど面倒臭そうでもない。

香穂子が助かるのだから良いことだと思うのに、なんとなく面白くない。

顔を突き合わせた教師と生徒のようなやりとりが、胸に何かを沈澱させる。

「加地くん」

「なに、天羽さん」

に、と笑った天羽は立っているため、加地は見下ろされる恰好になる。

「香穂の勉強終わる前に眉間の皺、なんとかした方が良いよ?」

眉間に指を這わせると確かに凹凸があった。

「忠告有り難う」

少し擦って微笑した。

「なんとかいけそう!」

「本当に頑張れよ?」

嬉しそうな香穂子の声に、とりあえず良かったと自分を納得させる。

「て、テストのとき宜しく…ね?」

「…アンサンブル頑張ってるんだと納得しておいてやる」

余程土浦の教え方が良かったのか、香穂子はぱっと一際明るく笑った。

「ありがと土浦くんっ大好き!」

大絶賛。

「加地くん、眉間」

「あ…あぁ…」

今度は擦る、というよりも揉み込んだ。

ちらりと横目で土浦と香穂子を見る。

ゲンキンだな、と土浦が笑っているあたり、恋情を含んでいるのでは無いと正確に理解している。

その信頼感すら羨ましい。

「…と、チャイム、もう鳴るな」

「じゃ、じゃあね!」

踵を返した天羽はぐいぐいと土浦の背を押し、土浦はそれを訝りながら教室を出た。

チャイムが鳴り、担任教諭が入室したのと同時に号令がかかり、幾つかの話をしてゆく。

ぐるぐると加地の頭を巡るのは、自分でない男に向けられた大好きの言葉と、満面の笑み。

(天羽さんでも面白いか面白くないかって聞かれたら面白くないのに、土浦って…)

「…日野さんっ」

自分の声が思いの外響いた。

しーっと人差し指を口許に当てている香穂子がもう一方の手で黒板のほうを指している。

見れば笑っていない目でにっこりと口許だけ弧を描いている英語教諭と目が合った。

へらっと笑って誤魔化し、ノートを取る振りをした。

授業が再開されたのを確認して、加地は余分に出したルーズリーフにペンを滑らせた。

ある程度筆談で会話出来る大きさに切って、先生の警戒が解けたのを見て、それを香穂子の机に置いた。

『土浦が好きなんだ?』

ぱちぱちと瞬きをする香穂子を横目で見、酷く女々しい感覚が加地を襲った。

直接聞けないのではなく、今聞きたい。

カチ、とシャーペンをノックしてその返事を書いて、慎重に加地の机へ置いた。

『凄く好きだけど…さっきのこと?土浦くんはlikeで凄く好き』

少し丸く癖のある字。

その丸さと、わざわざルーズリーフの線に沿って書いているのは香穂子の性格を綺麗に現していた。

『友達としてでも、僕は妬いてしまったよ?』

それをまた香穂子へと渡す。

読むなりさっきより驚いたよりも驚いたのか、加地のほうを向いてぱちくりとした。

それに悪戯っぽくウィンクを投げた。

こんな告白紛いを本気にして気を病ませたいわけではない。

(気に病まないのもそれはそれでだし、本気に取っても僕に差し障りはないけど…)

まだ、柔らかい笑顔の側にいたい。

先程はすらすらと書いたが、シャーペンを額に押し当て、悩んでいるらしい。

(…やっちゃった…かな…)

加地が痺れを切らして、別の紙に気にしないでと書くべきと思い始めた頃、香穂子のペンが進んだ。

おずおずと渡された小さな紙を、もどかしい思いをしながら開けた。

『妬かせたい人がいるから言ったって言ったら?』

「……っ!」

誰?!と聞き掛け、慌てて自分の口に手を当てた。

流石に二回目は駄目だろう。

先程よりももどかしく逸りながら、ペンを滑らせた。

『誰?』

返事を待っていられず、香穂子を食い入るように見つめる。

あの場に居たのは、眼前の彼女と、土浦と天羽と、その他大勢のクラスメイトと―――――。

加地の視線に気付いた香穂子は答えを紙に書かず、二回折り畳んだ。

そして先程のように人差し指を口許に当て、淡く、綺麗に微笑を浮かべた。

桜色の唇が、ひみつ、とゆっくり動く。

「……っ」

思わず突っ伏しそうになったが、辛うじて肘をついた手に顎を乗せるのに止めた。

(何、秘密って…!)

他でもない香穂子だから気になるのに、香穂子にそんな意思表示されてしまえば話を終えるしかない。

(頼むよ日野さん……)

はー、と溜め息を吐いた加地に気付かれないようにくすりと笑って、こっそりとさっきの紙を開いた。

それに返さない返事を書く。


『only you』


(まるで淡雪のような、まっさらな恋心は、沢山降り積もる季節に形にすれば解けはしないから)

(だけれどその淡雪で、あなたの指が、心が凍えないよう、あたしが、包んであげれたら)


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