白凪さんとの合同企画。
心地よい喧騒。
退屈な授業の合間の、気分転換。
いつもの教室。
「別にさ、恋人同士だからって恋愛モノを観る必要は無い訳だろ?」
「でもあれ、面白いって評判だろ?」
「おれはあのアクション映画が観たかったんだよ」
柚木の近くの席で談笑する男子生徒の声。
重低音で良く通る声で、気性なのだろう、声が大きい為に会話が筒抜けになっている。
話を要約すると、彼女と観る映画の内容で揉めたらしい。結構、かなり、派手に。
その日は結局映画を止めて買い物に変更したらしいが、やはり不満だったようで、友達に愚痴を零している。
その映画の話なら香穂子に聞かされた。
それを鼻で笑って一蹴したところ、拗ねられた覚えがある。
香穂子の場合は、好きな男優が出ていると熱弁したのが面白くなかっただけなのだが。
当然その拗ねている状態を許す訳無く、冷静に「話し合い」を敢行した。
そのときの香穂子の慌て振りがおかしくて、自然と口許が弓形になる。
「なあ柚木、柚木もそう思うだろ?」
「別に良いじゃねえか、恋愛映画くらい」
愚痴を零した彼の友人がいまいち賛同してくれず、柚木に話を広げてきた。
そんな子供の喧嘩のような話、解決策なんて見えている。
子供ではなく高三なのだから、譲歩すれば良い。
「柚木は譲れって言うに決まってるだろ」
少し前ならそう答えていた。
「女の子には優しくしなくちゃ」と自分でもなんとも寒々しい科白を付け加えて。
だが、今ならわかっていても子供のような喧嘩をしてしまう理由が、わかる。
「そう、だね。だけど」
にこりと、少し悪戯っぽさを含めて笑う。
「そんな喧嘩も含めて彼女といるのが楽しいんだろう?」
途端、少し驚いたように二人とも目を瞠った。
そんなに意外だっただろうか、それでも拙い返答ではない。
だから、涼しい顔で答えを待つ。
「……あははははっ」
笑われ、今度は柚木が驚いた。彼の友人すら驚いている。
精々少し照れながら同意するとばかり思っていた。
「そうだな、うん。確かに少し楽しかったな」
上機嫌で携帯を取り出し、恐らく彼女宛にメールを送って机に置いた。
「安心したなぁ、柚木からまさかそんな事言われるなんて」
「安心?」
「お前も人間の男だったなって思い出した」
よほど偶像的に思っていたらしい。
小さく苦笑だけ返した。
机に置いた携帯が震え、携帯を開けた途端、立ち上がった。
「ちょっと行ってくる。有難うな、柚木」
軽やかに走って教室から出て行った彼を見送って、会話の意味にピンと来ないまま過ぎ去った事態についていけず、彼の友人は首を傾げていた。
それに意味深に笑いかけ、机の中から本を引っ張り出す。
だが頁は繰っても決して文字を追ってはいない。
意識は少し離れた校舎内のクラスで談笑しているであろう香穂子へ向かっていた。
明日にでも、偶には香穂子が望むとおりにその映画に誘ってやろうか、と小さく心に決めて。
PR