白凪さんとの合同企画。
多分、おれの耳はどうにかなったんだ。
そう言って騒ぎ立てると滑稽でしかないから、しないけれど。
放課後、校内のあちこちで旋律が流れる。
コンクール中の今、おのずと練習量の増えた参加者に触発されるように音楽科の一部の生徒の練習も、やや増えた。
まして、今年は普通科の参加者が二人もいるのだから、負けたくないのだろう。
だから、音が溢れる。
旋律が、たゆたう。
なのに、一つのヴァイオリンの音がやたら耳につく。
元々、音楽的な意味で耳は悪くない。
ある程度見知っている人間ならば、その人物と音は一致する。
なのに最近は、その一つの音を除いて他のヴァイオリンの音が色褪せて聴こえる。
そう言っておかしくなった、と騒ぎ立てても滑稽でしかないから、しないけれど。
正直、不愉快だ。
心地良いと思ってしまうから、不愉快で堪らない。
まるで砂しかない世界で、照りつける太陽から逃れる為に水を欲するように、その音が欲しくて堪らない。
気がつけば、『水』が流れる屋上へと向かっている。
かつん、と静かに響く音すら、『水』の流れる音に消える。
扉を開けた向こうには、『水』の出で沸く処。
姿勢良く立った姿。
音と共に靡く髪。
少しぎこちない指先。
その指を見る、伏し目がちの瞳。
ぴくり、と瞳が震え、指先を見ていた瞳がおれを捉えた。
「柚木先輩」
「良いのか?途中で止めて」
「ずっと練習してたから、体が少し強張っちゃって…」
「………なあ、日野」
「はい?」
「一曲、付き合え」
日野が驚いたように、目を見張った。
日野が合奏を言い出しても、おれから言い出す事はまず無かった。
ただ、驚いたことに関してはおれも同じ。
するりと、極自然に、無意識のうちに出た申し出。
「はい」
まるで、日野本人の旋律のような笑顔。
重なるヴァイオリンとフルートの音色。
耳に届くこの音を心地良いと想う事は、いまだ不愉快だけれど。
音が溢れるこの学校で、一つの音だけが輝くように聴こえる、と騒ぎ立てると滑稽でしかないから、言わないけれど。
いつか、お前には言ってやるさ。
*お題「教室の窓から」の、柚香ver.のつもりで
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