白凪さんとの合同企画。
すう、と人差し指以外の長い指を手の中に握りこんで、ゆっくりゆっくり触れる。
「ひあ………っ!」
ざわりとした感覚に驚いてその源である戦火を押さえ込みながら香穂子は思い切り振り返った。
「んな…っ何するんですか柚木先輩!」
ざわざわとした感覚を消す為に背を擦って別の感触を与える。
香穂子はにっこりと笑う男に険を投げつけた。
「クラスの女の子がやっているのを見たから」
それをさらりと交わす。
「ば………何女の子がすること実践してんですかっ」
「『ば』って何」
それにやや引き攣った笑みでなんにも?と返すと背に遣っていた腕を下ろした。
「くすぐったかった?」
「それはもう」
少し睨みつけるように返事をしても柚木には全く効果が無い。
それどころか楽しそうにふぅんと返す。
「知ってる?」
「何がですか?」
授業開始間近なのと、移動教室でしか使われない廊下である為に人通りが無いのを良いことに向き合った形で香穂子の背を撫でた。
「きゃあっ……もう!」
顔の近さに身体が強張り、柚木の「嫌がらせ」を感受することになった。
幾ら怒っても効果を表さない柚木に憤慨してか、香穂子は不意に両手を柚木の脇腹へやる。
が。
「……あれ?」
くすぐったがるどころか顔色ひとつ変えない。
「くすぐったくないですか?」
「実際くすぐったくても耐えることくらい出来るよ」
「やっぱりくすぐったいんじゃないですか」
「さあ?」
涼しい笑顔で言う柚木が、香穂子には面白くない。
「くすぐったいところ、何処ですか?」
直球勝負。
「馬鹿なの?お前。言う訳ないだろ」
当然玉砕したがそれは予想済みである香穂子はめげる事無く考え始めた。
その様を見、柚木は笑顔の種を変える。
「……いや、教えてあげても良いぜ?」
「えっ」
ぱっと上げた香穂子の笑顔にこれで弱みのひとつも握れると書いてあるようで、柚木は声をあげて笑いそうになるのを堪えた。
「さっきの話だけど」
知ってる?と聞いて有耶無耶になりつつあった話。
さらりと香穂子の髪を掻き上げて囁くように言う。
「くすぐったいところって性感帯らしいぜ?」
身体と声と耳の近さに強張った香穂子の耳がそれををゆっくり咀嚼するように頭へ届ける。
「んなっ」
驚いて柚木の顔を見ようと香穂子は反射的に柚木と身体を話そうとしたが叶うどころかより近くなる。
先ほどよりも近い距離でよりゆっくいと背骨に沿って指を伝わせる。
「ひ……っ」
「それでも良いなら全部教えてあげるよ?」
背中の感触と、囁きと、その意味に香穂子の体が震えた。
と同時にチャイムが鳴る。
動けない香穂子を無視して柚木は香穂子から離れ、移動教室の先へと向かう。
柚木が歩き出す靴音で我に帰った香穂子が柚木の背へ向かって叫ぶ。
「せ……っセクハラですよ!」