白凪さんとの合同企画。
別に何て事は無い。
担任が普通科までの届け物をしてくれる生徒を募っていたから、申し出ただけで。
全ては先生からの信用を少しでも信頼を得る為。
だから。
まだ此方には気付いていない、茜色の髪をした少女が近づいて来る事なんて期待していたわけでは、無い。
今自分が来た方向を目指す彼女と、彼女が来る方を目指す自分に彼女が気付くのも、あと数秒の問題。
ましてや教材を両手に抱えた見知った人間が近づいて気付かない筈が無い。
「柚木先輩?」
「……やぁ、こんにちは、日野さん」
にっこりと表向きの笑顔に、香穂子はやや引き攣った笑顔を返した。
「普通科に届け物ですか?」
一年生のやつですね、と一番上の教材を覗き込みながら言った。
「どうやらうちの担任が担当教諭らしくて」
人の往来が激しいため、笑顔と口調を崩すことは無い。
「手伝いましょうか?」
半分持ちますよ、と言った香穂子を制した。
「持てない重さじゃないから。……それに友達と一緒だろう?」
香穂子の隣には恐らく香穂子と同じクラスの友達。
出しかけた手の行き場を失い、一瞬考えた香穂子は、一度ポケットに手を突っ込んで、中途半端なところまで手をあげてそのまま踵を返した。
「頑張ってくださいね」
ひらひらと手を振りながら友達を視線で促して、人ごみへと姿を消した。
ガラガラと引いてたった今用事を済ませた教室のドアを締める。
そしてふと香穂子の先ほどの不思議な行動を思い出した。
手をあげたのは香穂子の腹部…柚木の腰辺り。
とん、と腰に手を当てるようにして触ってみる。
―――――――カサ、
ポケットには余り物をいれない柚木の白いブレザーのポケットには、苺味の飴が二つ。
蘇る、香穂子の科白。
『頑張ってくださいね』
お使いも、煩わしい女子生徒の相手も。
「ふ、」
会えて良かった。
沸いた想いよりも甘い飴を口腔内で転がしながら、次の授業に出るべく、来た道に爪先を向けた。