白凪さんとの合同企画。
ああ、音が聴こえる。
いつもより柔らかくて、愛に溢れた、だけれど君の音。
「ん……?」
ホームルームが終わってそのまま寝ていたのか、気がつけば時間は放課後。
「ひっでー……」
誰か、起こしてくれれば良いのに、と思ったところで柚木が少し困った笑顔で「ホームルームも終わったよ」と起こしてくれた気がする。
小さく謝りながら、火原は手を組んでぐうっと強張った体を解した。
「あれ?そういえば…」
香穂ちゃんの音が聴こえた気がしたのに。
回り切らない頭を回して、音を手繰る。
(志水くんてこんな生活なのかな)
だとすれば彼の掴めない性格も、少しわかる気がする。
音を手繰っていけば、窓からが一番良く聞こえる。
「屋上?」
見えないのは仕方無いから、窓に体を預けて耳を澄ませる。
(上手く、なった)
それでも彼女の音だとわかるのは、まるで愛の力のようで。
(って、何考えてんのおれ!)
誰もいない教室で、火原は一人真っ赤になった顔を俯かせた。
酷く切りが悪いところで唐突に音が止む。
(誰か屋上に行ったのかな)
少し、胸に靄が漂う。
「ん?」
暫くして聴こえた二重奏はヴァイオリンとフルート。
(柚、木……?)
フルートを専攻する人は沢山知っているが、三年間同じクラスで、その間友達である柚木の音を聞き間違う筈が無い。
耳につくのは二重奏の旋律よりも、音の変わったヴァイオリン。
微かに、甘い音。
曲は、アヴェ・マリア。
(聖母に捧げる曲なのに?)
フルートが響く。
旋律に動かされるように、想いがほんの少し、見えた。
(ああ、だから……)
音は、本当に正直だ。
本人たちですら気付かない、小さな想いすら映して流れる。
音を運んで、風は神と、カーテンを靡かせる。
「あーあ」
存在に気付いた途端、実を付ける事はない事もわかってしまった。
だけれど涙は出ない。
きっと、彼女は微笑ってるから。
只、見えない花を揺らすのは、窓からの雄大な、甘さの孕んだ吐息。
彼女の笑顔に想いを馳せて、花が散らないようカーテンを体に巻きつけて、唯一の聴衆になった。
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